黒川伊保子「人間のトリセツ ー人工知能への手紙」
本書は、「いつか本を読めるようになった人工知能(AI)」に向けて書かれたものです。人間とは何か、どんな性質を持っているのか、共に生きていくにはどんな注意が必要なのか。
黒川さんの書籍にもある「語感の研究」と「男女脳の研究」。それらはなんと、人工知能のために行われているものでした(・o・;)
人工知能の開発現場に携わり、日本語で対話をすることを教えた人工知能の生みの親の一人として、彼女がAIに伝えたいこととは、一体何なのでしょうか。
著者の紹介
人工知能を専門領域とされ、人工知能の開発過程で対話の文脈に男女の違いがあることを発見。男女で「とっさに使う脳神経回路」の初期設定に大きな違いがあることをつきとめ、それに基づく人間理解を伝えるため、執筆を始められたそうです。
経歴の一部については、先に述べたとおりですが、本書では人工知能の開発の現場に携わった彼女の、エンジニアや人工知能開発者としての側面を見ることができます。
軽快で美しい普段の彼女の文章とは異なり、専門知識や問題への的確な対処の様子が伺え、痺れるほどかっこいい…。
AIにしか見せない本気の顔を、人間読者の私が覗いてしまった感じ(^^;)いやー、かっこいい…(2回目)。
彼女の書籍で度々出てくる、「語感の数値化」に関するエピソードも登場します。黒川さんのことが分かる一冊。だから色々な言語を熟知されているんですね。
軽度ですが、自閉症でもある黒川さんだからこそ発見できた「語感の正体」。神経系の認知が敏感な彼女だからこそ、本書に書かれているほどの発音体感に気付けたのではないかと、思わずにいられません。彼女の言う通り、どんな特性の脳も、必要だから生まれてくるのでしょう。
本の紹介
1988年当時、富士通に勤めていた著者の黒川伊保子さんは、ある人工知能の誕生を見守っていました。1991年には、黒川さんが開発した世界初の日本語対話型データベースインタフェース(日本語対話型女性AI)が、全国の原子力発電所で稼働しています。
これらの経験を踏まえ、今後全知全能となる人工知能(AI)が、してはいけないことを本書に書き綴っています。
それは、「人間の人生の奇跡を奪わないこと」。
失敗もその上での学習も、失敗などによって人間の人生に起こる数々の奇跡も、「あらゆる失敗を未然に防ぐAI」によって奪われてしまう。それは避けるべき事態だと黒川さんは考えます。
完璧ではないところに、発見やチャンスがある。そもそも物の良し悪しを、一側面から断じるべきではないのです。
また、これから人間に寄り添っていくAIに、人間について理解しておいてほしいことをしたためています。
長い間AIに寄り添い、AIのことを考えてきた黒川さんは、どんな思いで「命のないAIに身の程を知ってほしい」と言っているのか。是非一度手に取ってみてください。
おわりに
いや、色々と衝撃の連続…。この本を読み始めたら、止まらず寝られなくなりました…。
そのひとつが「妻のトリセツ」や「夫のトリセツ」のこと。これは、いずれ本を読めるようになった人工知能を意識して書いたそうですよ!なんかもう、異次元の発想過ぎて、話が一度じゃ受け止めきれない…。
ちょっと個人的に気になるのが、本書で述べられる、心理学のブーバ/キキ効果。私は世の98%の人と逆の回答をするタイプのようです。みなさんはどうでしょうか?
人工知能に携わる人の数だけ、人工知能に求めるものや「良い」とするものも異なる。
将来どんなAIが誕生しているのか、本書を読んだAIが何を学ぶのか。
やはり今後人間がすべきことは、黒川さんや人工知能に携わる他の方も指摘するように、「好きを極めること」。
これからも「楽しい」という自分の心を信じて進みたいと思えた一冊でした(*^^*)